[[index.html|醒睡笑]] 巻5 婲心 ====== 17 和泉の堺に森川といふ大鼓打ちあり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho5-016|<>]] 和泉の堺に森川といふ大鼓打ちあり。数寄(すき)を心におもしろく思ひ、煎餅(せんべい)を小さく割りて菓子に出し、悪茶(わるちや)をたてて、侘びつつも客を送りて出で、「お礼なしで御座ある」と言ふ。 知音の者あり。「珠光((村田珠光))・紹鴎((武野紹鴎))などの言はれさうなる時宜めきて、『お礼なし』とは、など言ふぞ。ただ、『お出でかたじけなし』とばかりがよからう」と異見しければ、「さればよ、われも身ながらかたはらいたく思へども、浮世の数寄したる人、結構に会(くわい)し、一軸・花入れ、興を尽し、極上別儀(ごくじやうべちぎ)の濃茶・薄茶、式法過ぎて門送りし、路地のくぐりに手をおさへ、『お礼なしで御座ある』と言はるるがけなりさに、せめて口まね((「口まね」は底本「くるまね」。諸本により訂正。))して遊ぶ」と。 [[n_sesuisho5-016|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 和泉の堺に森川といふ大鼓打あり数寄を   心におもしろくおもひせんべいをちいさく   わりて菓子(くわし)に出しわる茶をたててわび   つつも客を送りていでお礼なしで御座あ   るといふ知音の者あり珠光(しゆくわう)紹鴎(じやうわう)などの   いはれそうなる時宜めきてお礼なしとはなど   いふぞ唯お出忝と斗がよかろふと異見(いけん)し/n5-11r   ければさればよ我も身ながら片腹いたく思   へとも浮世の数寄したる人結構(けつかう)に会(くわゐ)し   一軸花入興をつくし極上別義の濃(こひ)茶うす   茶式法(しきはう)過て門送りし路地のくくりに手   ををさへお礼なしで御座あるといはるるがけ   なりさにせめてくるまねしてあそぶと/n5-11l