[[index.html|醒睡笑]] 巻5 婲心
====== 8 美濃の国に石谷といふ侍あり・・・ ======
===== 校訂本文 =====
[[n_sesuisho5-007|<>]]
美濃の国に石谷(いしがい)といふ侍あり。斎藤山城守((斎藤道三))と同心にて、鷺山の城にこもれり。寄手(よせて)は斎藤新九郎((斎藤義龍))取りまき、やうやう落城に及ぶみぎり、かの
石谷、文武に心がけの功あるを惜しみ、矢文を射、使者を立て、「是非出でられよ。未練にはなるまじき((「なるまじき」は底本「なくまじき」。諸本により訂正。))」旨(むね)ことわり過ぎしに、
命やはうき名にかへん世の中にながらへはつる習ひありとも((「習ひありとも」は底本「なとひありとも」。文脈により訂正。))
同じ時、妻女の方へ、
なびくなよませの内なるを女郎花男山より風は吹くとも
二字翻案(ほんあん)に返し、
なびくまじませの内なる女郎花男山より風は吹くとも
と書きてつかはし、国の内、華蔵院(けざういん)といふ比丘尼所(びくにどころ)に走り入りて、むなしき跡を問ひしとなり。
[[n_sesuisho5-007|<>]]
===== 翻刻 =====
一 美濃(みの)の国に石谷(いしがい)といふ侍あり斎藤山城守/n5-6r
と同心にて鷺(さき)山の城に籠れりよせては斎藤
新九郎とりまきやうやう落城におよぶ砌(みきり)かの
石谷文武に心がけの功あるをおしみ矢文を
射(い)使者をたて是非出られよ未練(みれん)にはなくまじ
き旨ことはり過しに
いのちやはうきなにかへん世中に
なからへはつるなとひありとも
同時妻女(さいちよ)のかたへ
なひくなよませの内なるをみなへし/n5-6l
男山より風はふくとも
二字翻案(ほんあん)に返し
なひくましませの内なるおみなへし
おとこ山より風はふくとも
と書てつかはし国の内花蔵院といふ比丘尼(ひくに)
所に走入てむなしきあとをとひしとなり/n5-7r