[[index.html|醒睡笑]] 巻4 いやな批判 ====== 12 鳶は木にとまりゐて芦辺に住む鷺に向かひ・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho4-038|<>]] 鳶(とび)は木にとまりゐて、芦辺(あしべ)に住む鷺(さぎ)に向かひ、「そちほど色白く、いつくしき姿はなし。いかにも、物言ひが粗相(そさう)にて賤しいは」と言ふ。鷺、腹を立てて、「そちは鳥の中にても四十八鷹の内に入りて、空を立ち舞ふ風情のよさ、謗(そし)らんやうもなきが、物腰のくどさ長さ((「長さ」は底本「ながき」。諸本により訂正。))、聞かれぬ。わがごとく言葉少なならば、よからんものを」と、こなしこなされ、「かくてはこらへられず。誰(た)そに批判を受けん」と、おのれおのれが土産を用意するに、鳶は例の腐りたる鼠を求め、鷺はかひかひしく跳び踊る鰌(どじやう)をととのへ、鷲の住むなる峰に飛ぶ。 二鳥(てう)の声を聞きて、「鷺はいかさま言便(ごんびん)短かく((「短かく」は底本「みじく」。諸本により訂正。))当風(たうふう)にあへり。鳶は何とや、『ひい』までにてよからんものを、後の『りよりよ』が長すぎて聞かれぬ。古流なり。とかく負けよ負けよ」と。 これをや、「草苞(くさづと)に国傾(かたぶ)く」とも申しつべし。 [[n_sesuisho4-038|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 鳶は木にとまりゐて芦辺(あしへ)にすむ鷺(さき)にむかひ   そちほといろしろくいつくしきすかたはなし   如何にもものいひがそさうにていやしひはといふ   鷺(さき)腹(はら)をたててそちは鳥の中にても四十八鷹(たか)   の内に入て空をたちまふ風情のよさそしらん   やうもなきが物こしのくどさながききかれぬ我   ことくこと葉すくなならはよからん物をとこな   しこなされかくてはこらへられすたそに批判   をうけんとをのれをのれか土産を用意するに/n4-33r   とひは例のくさりたる鼠をもとめ鷺はかいかいし   くとびおとるどじやうをととのへ鷲のすむなる   峯にとふ二鳥の声を聞て鷺はいかさま言便(こんひん)   みじく当風(とうふう)にあへり鳶(とび)はなにとやひいまて   にてよからんものを後のりよりよか長過(なかすき)て   きかれぬ古流なりとかくまけよまけよとこれをや    草つとに国かたふくとも申つべし/n4-33l