[[index.html|醒睡笑]] 巻4 聞こえた批判 ====== 18 平安城にて質に具足を置き受けんとする時に見れば鼠が糸を食ひたり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho4-017|<>]] 平安城にて質に具足を置き、受けんとする時に見れば、鼠が糸を食ひたり。受け主(ぬし)難儀に思ひ、いろいろ理を言うて歎き、「さらば利足(りそく)をなりとも、少しは許されよ」とわびけるに、質屋さらに聞かず。あまつさへ鼠一つ殺して、「これが蔵にゐて具足を食らうたる科人(とがにん)なり。しかるあひだ成敗して候ふ」と持たせつかはす。 質置き、口惜しきことに存じ、所司代へまかり出でて、始中終(しちうじゆう)をつまびらかに申しければ、多賀の豊後守((多賀高忠))下知せられけるやう、「さては鼠は盗人なり、盗人のゐたる家なる間、闕所(けつしよ)せよや」とて、家財をことごとく取り、質置きに出だされたり。 ありがたき公の水晶なり((底本この一文小書き。))。 「窮鼠還嚼猫。(窮鼠(きうそ)還(かへ)つて猫を嚼(は)む)」とあれば、憎むところ狂惑((底本「狂惑」の左に「まげまどふ」と傍書。))なる鼠根性なるかな。 [[n_sesuisho4-017|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 平安城にて質(しつ)に具足ををきうけんとする   時にみれば鼠(ねつみ)か糸をくひたりうけぬし難儀   におもひいろいろ理をいふてなけきさらは利   足をなりともすこしはゆるされよとわびける   にしちやさらにきかす剰(あまつさへ)鼠(ねずみ)一つころして/n4-19l   これか蔵にゐて具足をくらふたる科人也然間   成敗(せいばい)して候ともたせつかはすしちをき口惜(くちおしき)   敷事に存知所司代へ罷出始中終を詳(つまびらか)   に申けれは多賀の豊後守下知せられけるやう   扨は鼠は盗(ぬす)人也盗人の居(ゐ)たる家なる間闕所(けつしよ)   せよやとて家財(かさい)をことことくとりしちをき   に出されたり ありかたき公の水晶也   窮鼠(きうそ)還(かへつて)嚼(はむ)猫(ねこを)とあれはにくむ処狂惑(まけまとふ)なる   鼠根性(ねつみこんじやう)なるかな/n4-20r