[[index.html|醒睡笑]] 巻4 聞こえた批判 ====== 7 山科の百姓薪をこり負ひたるまま山よりすぐに京に出でて売る・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho4-006|<>]] 山科の百姓、薪をこり、負ひたるまま山よりすぐに京に出でて売る。さるほどに、かの薪(たきぎ)の上((「上」は底本「よ」。諸本により訂正。))にさして置きたる鎌をうち忘れ、宿に帰り、やうやく思ひ出だし、右の薪買うたる人のもとに行き、件(くだん)のよしを言ひてければ、主人、出合(であひ)ひ、「われは薪をこそ買うたれ、鎌をば買はず。何事をほれて言ふやらん」と、一向とりあはねば、是非なうて所司代へ申しけり。 双方呼び出だし聞きての上に、伊賀守((板倉勝重))、「まづ、しばらくほどあらんに、肩衣袴(かたぎぬばかま)を脱ぎ、ゆるゆるとゐよ」と、気をくつろげ、脱ぎたるを取り寄せ、そと持たせつかはし、「この肩衣袴と、そちにある鎌を替へておこせよ」とあれば、女房、疑ひなく思ひ、出だせり。そのごとくなる鎌を、五・六挺(ちやう)まいへ出だし、百姓に、「見分けよ」とあれば、「これぞ私のなれ」とてよりたり。 その後、鎌を隠しつる者に、過銭(くわせん)として三貫文出ださせ、以前の百姓に扶持ありしことよ。 [[n_sesuisho4-006|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 山科の百姓薪(たきき)をこり負(おひ)たるまま山より   すくに京(きやう)に出て売(うる)さるほとに彼薪のよ   にさして置(おき)たる鎌をうちわすれ宿に帰り   漸(やうやく)思出し右の薪(たきき)かふたる人のもとに行件の/n4-9r   よしをいひてけれは主人出合(てあひ)われは薪をこそ   かふたれ鎌(かま)をはかはす何事をほれていふや   らんと一向とりあはねは是非(せひ)なうて所司代へ   申けり双方よひいたし聞ての上に伊賀守先   しはらくほとあらんに肩衣袴(かたきぬはかま)をぬきゆるゆると   ゐよと気をくつろげぬきたるをとりよせそ   ともたせつかはし此肩衣袴とそちにある   鎌(かま)をかへておこせよとあれは女房うたかひ   なくおもひいたせり其のことくなる鎌を/n4-9l   五六てうましへ出し百姓に見分よとあれ   は是ぞ私のなれとてよりたり其後鎌を   かくしつる者に過銭として三貫文いた   させ以前の百姓に扶持ありし事よ/n4-10r