[[index.html|醒睡笑]] 巻4 聞こえた批判 ====== 1 貴賤袖をつらねわれも人も数珠つまぐる体を見・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho4-000|<>]] 貴賤袖をつらね、われも人も数珠つまぐる体(てい)を見、被官(ひくわん)たる者、「やさしや、ひうがん((彼岸))とて、仏参りをつかまつるよ」と言ふを、主聞き付け、「『ひうがん』は片言(かたこと)や。『ひがん』と言へ」と。「これはかかること。われらもはや五十に余れども、つひに『ひうがん』とこそ申しならはして、『ひがん』と言ふは聞かず」。 主、大きに腹を立て、「相手に足らぬことなれども、あまりなんぢ争ふが憎きほどに、地頭に儀(ぎ)を得よや」とて、かの批判を聞きたれば、「双方に理あり。彼岸は春と秋とに分かてり。秋は収納(しうなふ)の営み、月に夜田(よだ)刈るいそがはしさに、いかにも言葉短かきを要(えう)とし、『ひがん』といふよし。春は四方(よも)の山なみうち霞み、百囀(ももさへづ)りの鳥のいろ、花ならねどもかうばしく、隙(ひま)ありげにも胡蝶舞ひ遊ぶ、いとゆふ折なれば、『ひうがん』こそよろしからめ。あなかしこ、争ふことなかれ」。 [[n_sesuisho4-000|<>]] ===== 翻刻 ===== 醒睡笑巻之四    聞多批判 一 貴賤(きせん)袖(そて)をつらねわれも人もしゆすつまくる   体を見被官(ひくはん)たる者やさしやひうがんとて   仏まいりをつかまつるよといふを主聞つけ   ひうがんはかたことやひがんといへとこれはかかる   事我等もはや五十にあまれともつゐにひ   うかんとこそ申ならはして彼岸(ひかん)といふはき   かず主大に腹をたてあひてにたらぬ事/n4-3l   なれどもあまりなむぢあらそふかにくき程   に地頭(ちとう)に儀を得よやとて彼ひはんを聞   たれは双(さう)方に理あり彼岸(ひがん)は春と秋とに   わかてり秋は収納(しゆなう)のいとなみ月に夜田(よだ)かるいそ   かはしさに如何にも言葉みしかきを要(よう)とし   ひがんといふよし春は四方の山並打霞百囀の   鳥の色花ならねともかうばしく隙(ひま)ありけに   も胡蝶(こてう)まひあそふいとゆふ折なれはひうかん   こそよろしからめあなかしこあらそふ事なかれ/n4-4r