[[index.html|醒睡笑]] 巻3 清僧 ====== 7 昔唐土に宝誌和尚といふあり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho3-105|<>]] 昔、唐土(もろこし)に宝誌和尚((底本「宝諰」。宝志・保誌とも書く。))といふあり。 道徳おはしければ、帝(みかど)は、「姿を影に描き留めん」とて、絵師三人をつかはし給ふ。三人、めんめんに写すべきよし、仰せ含めらる。 和尚へ参り、かく宣旨を蒙り詣でたるよし、申せば、「しばし」と言ひて、法眼(ほふげん)の装束し出で合ひ給へるを、三人おのおの書くべき絹を広げ、すでに筆をくださんとするに、聖、「しばらく。われ、まことの形あり。それを見て写すべし」とあり。さうなく描かずし、御顔を見れば、大指(おほゆび)の爪にて額の皮をさし切りて、皮を左右へ引きのけたるより、金色の菩薩の顔をさし出だしたり。 一人は十一面観音と見る。一人は聖観音と拝み奉りつる。見るままに写し奉り、持ち参りたれば、帝驚き別の使(つかひ)を立てて問はせ給へば、かい消つやうに失せ給ふ。 [[n_sesuisho3-105|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 昔もろこしに宝諰(ほうし)和尚といふあり道徳   おはしけれは帝(みかと)は姿を影にかき留んとて   絵師三人を遣し給ふ三人めんめんにうつす/n3-51l   へきよし仰ふくめらる和尚へ参りかく宣   旨を蒙りまうてたるよし申せはしばしと   いひて法眼(ほうげん)の装束し出合給へるを三人   各書へき絹(きぬ)をひろけ既に筆をくたさん   とするに聖しはらく我まことの形あり   それを見て写べしとあり左右なくかか   すし御顔を見れば大指(ゆひ)の爪にて額(ひたい)の   皮をさしきりて皮を左右へ引のけたる   より金色の菩薩(ぼさつ)のかほをさしいだし/n3-52r   たり一人は十一面観音と見る一人は聖   観音と拝奉りつる見るままに写奉り   持参たれは御門おとろき別のつかいを   たててとはせ給へはかいけつやうに失せ給ふ/n3-52l