[[index.html|醒睡笑]] 巻3 自堕落 ====== 21 昔より八瀬の寺は禁酒なり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho3-096|<>]] 昔より八瀬(やせ)の寺は禁酒なり。寺中(じちう)に酒を好む僧のたくみて、経箱をささせ、角(すみ)をとり、いかにも結構に塗らせ、上に「五部の大乗経」と書き付け、それを通ひにしけり。酒を取りてくるに、人、「それは」と問へば、「これは五部の大乗経なり。京にいただかんことを願ふ檀那あり。そのゆゑに折々持ちて行き通ふ」と答ふ。あまり京通ひのしげければ、人あまねく推(すい)してけり。 ある時、内の者、経箱を持ち帰る途中にて、酒の匂ひをきき、飲みたさやるせなし。そと口を開け給はりぬ。そろそろ寺に帰るに、「それは何ぞ」。常のごとく、「経にて候ふ」と言ふ。「さらば、ちといただかん」とて、手に取り振りて見、「まことにお経やらん。内に五部五部(ごぶごぶ)といふ声がする」。 [[n_sesuisho3-096|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 昔よりやせの寺は禁(きん)酒なり寺中に酒を   好む僧のたくみて経箱をささせ角(すみ)をとり   いかにも結構(けつこう)にぬらせ上に五部(ぶ)の大乗経(ぜうきやう)   と書付それをかよひにしけり酒をとりて   くるに人それはととへば是は五部の大乗経也/n3-45l   京にいただかん事をねかふ旦那あり其故に   折々もちてゆきかよふとこたふあまり京   かよひのしげけれは人あまねく推(すい)して   けり有時内の者経箱をもちかへる途(と)   中にて酒のにほひをききのみたさやるせ   なしそと口をあけ給りぬそろそろ寺に   かへるにそれはなんぞつねのことく経にて候と   いふさらはちといただかんとて手にとりふり   てみまことにお経やらん内に五ぶ五ぶと/n3-46r   いふ声がする/n3-46l