[[index.html|醒睡笑]] 巻3 自堕落 ====== 19 ある檀那寺に参りしばらく雑談し立ちざまに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho3-094|<>]] ある檀那、寺に参り、しばらく雑談(ざうたん)し、立ちざまに、「明日、無菜(ぶさい)の斎(とき)を申さん」と言へば、庫裏(くり)から妙(めう)((僧の妻。))が楚忽(そこつ)に出でて言ひける、「幸ひのことや。明日(あす)はお坊様の精進の日じや」。 僧の方より旦那を呼ばんに言ふべき仁義ではおりないか((底本、この文、小書きで数字下げ。))。 『仁王経』に、「比丘地立(びくちりふ)、白衣高座(びやくえかうざ)」。 白衣は俗なり。   世の末は墨の衣(ころも)も武士(もののふ)の奴(やつこ)となれる法(のり)ぞ悲しき 中峰和尚修行の記に、「身着法衣、思染俗塵(身には法衣を着れども、思は俗塵に染めり)」  墨染の衣に似たる心かと問ふ人あらばいかが答へん  遁世(とんせい)の遁の一字を書き替へて昔は遁(のが)れ今は貪(むさぼ)る [[n_sesuisho3-094|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 或檀那(たんな)寺に参りしばらく雑談(ざうたん)し   たちさまに明日無菜の斎(とき)を申さんとい   へは庫裏(くり)からめうか楚忽(そこつ)に出ていひける幸の   事やあすはお坊様の精進の日しや     僧の方より旦那をよはんにいふべき仁義ではおりないか   仁王経に比丘(ひく)地立(ちりう)白衣(びやくえ)高座(かうざ) 白衣は俗也    世の末は墨の衣も武士の     奴(やつこ)となれる法そかなしき/n3-44l   中峯和尚修行ノ記ニ 身着法衣思染俗塵    墨染の衣に似たる心かと     とふ人あらばいかがこたへん    遁世(とんせい)の遁(とん)の一字を書かへて     むかしは遁(のか)れ今はむさぼる/n3-45r