[[index.html|醒睡笑]] 巻3 不文字 ====== 38 一円不文字なる侍小知行の代官になりてわめき歩く・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho3-056|<>]] 一円不文字なる侍、小知行の代官になりて、わめき歩(あり)く。ちと卑堕涙(ひだるい)と思ふ折節、庄屋のもとに立ち寄りたり。「麦飯(ばくはん)の候ふ。出だし候はんか」と言ふに、「いや嫌ひに候ふ」とて立ちぬ。 そこもと歩(あり)き、「麦飯とは何ぞ知らぬ」と語る。麦のめしのことと聞き、「さらば、また行きて食はん」と思ひ、庄屋が家に入りつれば、人を出だし、「にはに下風(げふう)の起こり、難儀さに火に当てあぶる」よし言へば、かの代官、「その下風ならば、あぶるまでもなし。そのまますゑよ。食はん」とぞ申したる。 [[n_sesuisho3-056|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 一円不文字なる侍小知行の代官になりて   わめきありくちと卑堕涙(ひたるい)とおもふ折節   庄屋のもとに立よりたり麦飯(はくはん)の候出し   候はんかといふにいや嫌(きらい)に候とてたちぬそこもと   ありき麦飯とはなにぞしらぬと語る麦の   めしの事と聞さらは又行てくはんとおもひ   庄屋か家に入つれば人を出し俄に下風   の起(おこ)り難義(なんき)さに火にあてあふる由いへば   彼代官其下風ならはあぶるまてもなし/n3-25l   其まますへよくはんとそ申したる/n3-26r