[[index.html|醒睡笑]] 巻2 賢だて ====== 14 二条院和歌好ませおはしましける時・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho2-103|<>]] 二条院((二条天皇))、和歌好ませおはしましける時、岡崎の三位((藤原範兼))、御侍(ぎよじ)の歌読みにてさぶらはれけるに、この聞こえ高きによりて、清輔朝臣((藤原清輔))召されて殿上にさぶらひけり。 いみじき((「いみじき」は底本「いとしき」。諸本により訂正。))面目なりけるを、ある時の御会に、清輔、いづれの山とか、「このもかのも」といふことを詠まれたりければ、三位、これを難じていはく、「筑波山こそ『このもかのも』とは詠め。おほかた山ごとにいふべきにはあらず」と難ぜられければ、清輔、申していはく、「筑波山までは申すべきならず。河などにも詠み侍るべきとこそ」とつぶやきければ、三位あざ笑ひて、「証歌(しようか)奉れ」と申されけるに、清輔のいはく、「大井川の会に、躬恒((凡河内躬恒))が序書ける時、『大井川のこのもかのも』と書けること、まさしく((「まさしく」は底本「にかさしく」。諸本により訂正。))侍るものを」と言ひたりければ、諸人、口を閉ぢてやみにけり。 あながちに物をば難ずまじきことなり。 [[n_sesuisho2-103|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 二条院和哥好ませおはしましける時   岡崎の三位御侍の哥読にてさふらはれける   に此聞へたかきによりて清輔朝臣めさ   れて殿上にさふらひけりいとしき面目也   けるを或時の御会に清輔いつれの山と   かこのもかのもといふ事をよまれたりけれは/n2-53r   三位これを難じていはくつくば山こそこの   もかのもとはよめ大かた山ことにいふへきには   あらすと難せられけれは清輔申ていはく   つくは山迄は申へきならす河なとにも   よみ侍へきとこそとつふやきけれは三位あ   さはらひて証歌奉れと申されけるに   清輔のいはく大井川の会に躬恒か序   かける時大井川のこのもかのもとかける   事にかさしく侍るものをといひたり/n2-53l   けれは諸人口を閉(とち)て止にけりあなかちに   物をはなんすましき事也/n2-54r