[[index.html|醒睡笑]] 巻2 賢だて
====== 12 秦の始皇の代に天竺より僧渡る・・・ ======
===== 校訂本文 =====
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秦の始皇((始皇帝))の代に、天竺より僧渡る。帝(みかど)、「これはいかなる者ぞ」。僧言ふ、「釈迦牟尼仏の弟子なり。仏法を伝へんため渡れり」と申せば、帝、「その姿あやし。髪(かみ)かぶろにて、衣の体たがへり。仏とは何者ぞ。あやしき者なり。返すべからず。人屋にこめよ」と、とぢこめて置く。
この僧、「悪王に逢ひて、悲しき目を見る。わが本師釈迦、滅後なりとも見給ふらん。助け給へ」と念ずるに、釈迦、丈六、紫磨金(しまごん)の光を放ち、空より来たり、獄門を踏み破りて、僧を取り去り給ひぬ。ついでに多くの盗人、みな逃げ去りぬ。
このよしを申すに、帝、おぢ恐り給ひけりとなん。
その時渡らん((「渡らん」は底本「わたん」。諸本により訂正。))としける仏法、世くだりて、漢の代に渡りけるとぞ。
これは、始皇の賢だてによつてなり。
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===== 翻刻 =====
一 秦始皇の代に天竺より僧渡る御門是はい
かなる者そ僧言尺迦牟尼仏の弟子也仏法を
伝んため渡れりと申せは御門其姿あやしか
みかふろにて衣のていたかへり仏とはなにも
のそあやしきもの也返すへからす人屋にこめ/n2-51l
よと閉(とち)こめてをく此僧悪王に逢てかなし
きめを見る我本師釈迦滅後なりとも
見給らん助給へと念するに尺迦丈
六紫磨金の光をはなち空より来
獄門を踏破て僧をとり去給ぬつゐてに
多の盗人皆逃去ぬ此由を申に帝(みかど)
おちおそり給けりとなん其時わたんとしける
仏法世くたりて漢の代にわたりけるとぞ
是は始皇のかしこたてによつてなり/n2-52r