[[index.html|醒睡笑]] 巻2 躻(うつけ) ====== 7 藤五郎とてこざかしき者と専十郎とてうつけとともに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho2-038|<>]] 藤五郎とてこざかしき者と、専十郎とてうつけと、ともに田舎の者、在京するに同宿なり。二人つれだち、講堂の風呂((革堂(行願寺)の隣にあった風呂屋。))に入らんとす。 藤五郎、このほど専十郎がうつけををかしく見付け、「さいはひのことや、小風呂にて頭を張らん」とたくみかまへて、専十郎、「京の習ひに、風呂に入る者は必ず頭を張るぞ。腹を立つるを田舎人(ゐなかびと)といふ。張られてもこらゆるが都人(みやこびと)ぞ」と言ひ教へ、小風呂にともなひ入り、思ふさま、目と鼻の間を張りけり。 専十郎言ふ、「藤十郎、はや食はせたは」と。「沙汰するな、沙汰するな」とて、また一つ張りてけり。藤五郎、「また食はせたは」と。 専十郎思ふ、「わればかり張られて帰らんは本意(ほい)なし」と案じ、老人のよぼよぼと入る者を待ちて、おづおづ一つ張りたれば、かの相手大きに腹を立ち、「いづくのうつけめぞ。是非張り返さん」とわめく時、専十郎言ふ、「藤五郎、いかい田舎者があるは。初心者(しよしんもの)じや」と。   風呂たきのわが身は煤(すす)になりはてて人の垢のみ落すものかな [[n_sesuisho2-038|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 藤五郎とてこさかしき者と専十郎とて   うつけとともに田舎の者在京するに同宿なり   二人つれたち講堂の風呂にいらんとす藤五郎/n2-24l   此ほと専十郎がうつけをおかしく見つけさい   はひの事や小風呂にてあたまをはらんと   たくみかまへて専十郎京の習に風呂に入   者はかならすあたまをはるそ腹をたつる   を田舎人といふはられてもこらゆるか都   人そといひおしへ小風呂にともなひ入おもふ   さま目とはなのあひたをはりけり専十郎   いふ藤十郎はやくはせたはとさたするなさたするな   とて又一つはりてけり藤五郎又くはせたはと/n2-25r   専十郎おもふわれはかりはられてかへらんは本意   なしとあんじ老人のよほよほと入者を   まちておつおつ一つはりたれは彼あひて大に   腹をたちいつくのうつけめぞ是非はりかへ   さんとわめく時専十郎いふやう藤五郎   いかいゐなか者かあるは初心ものしやと    風呂たきのわか身はすすに成はてて     人の垢のみおとすものかな/n2-25l