[[index.html|醒睡笑]] 巻2 躻(うつけ) ====== 1 腑の抜けたる仁に海老をふるまひけるが・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho2-032|<>]] 腑の抜けたる仁に海老(えび)をふるまひけるが、赤きを見て、「これは生まれつきか、また朱にて塗りたる物か」と問ふ。「生得は色が青けれど、釜にて煎りて赤うなる」と言ふを合点(がてん)しゐけり。 ある侍の馬に乗りたる先へ、二間(にけん)まなか柄の朱鑓(しゆやり)二十本ばかり持ちたる中間(ちうげん)どもの走るを見、手を打つて、「さても世は広し。奇特なることや」と感ずる。「何をそなたは感ずるぞや」と問ひたれば、「そのことよ。今の鑓の柄の色は、火をたいて剥いたものぢやが、あれほど長い鍋がようあつたことや」と。  三月尽を    雄長老   春の日は長鑓なれど篠(ささ)の葉のひとよばかりになれるいしづき 也足((中院通勝))の判に、「篠の葉鑓石づきになれる、三月の名残りよくいひ続けられたり。作においては吉光((刀工粟田口吉光。歌の出来栄えを名刀にたとえている。))にこそ」。 [[n_sesuisho2-032|<>]] ===== 翻刻 =====    躻 一 腑のぬけたる仁にゑひをふるまひけるが赤を見て   これはむまれつきか又朱にてぬりたる物   かととふ生得はいろがあをけれどかまにていり   てあかふなるといふをかてんしゐけり   ある侍の馬にのりたる先へ二間まなか柄の   朱鑓二十本斗もちたる中間とも   のはしるを見手をうつてさても世はひろし   きとくなる事やと感するなにをそなたは/n2-21l   かんするそやととひたれは其事よいまの鑓   の柄のいろは火をたいてむいたものぢやがあ   れほとなかいなへかよふあつた事やと     三月尽を 雄長老    春の日は長鑓なれと篠の葉の    ひと夜はかりになれる石つき   也足の判にささの葉鑓石つきになれる   三月の名残よくいひつつけられたり作に   をひては吉光にこそ/n2-22r