[[index.html|醒睡笑]] 巻2 貴人の行跡
====== 7 河内の国に交野といふ所あり・・・ ======
===== 校訂本文 =====
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河内の国に交野(かたの)といふ所あり。「交野の御狩」と書ける、これなり。かの領主に大塚彦兵衛とかやいうて、あたりまで崇敬(そうぎやう)の人ありき。宗祇と入魂(じつこん)他(た)にことなり。
卯月の初めつかた、祇公立ち寄り給ひ、休息のほどありし、いろいろ風流の物語に時うつりて、「何と、祇公はいまだ郭公(ほととぎす)の初音(はつね)をば聞き給はぬや」。「いな、夢にだにもおとづれず」とあり。大塚、「さらば、われ発句をつかまつり、鳴かせん」とて、
鳴けや鳴けわが領内の郭公
とあれば、祇公の脇に、
孫子(まごこ)をつれて鳴け時鳥(ほととぎす)
第三をする人なし。「とてものことに沙汰候へ」とあれば、また祇公、
とにかくに御意(ぎよい)にしたがへ郭公
時にあたり人の心をやぶらんは、興さめて見えぬべし。祇公の挨拶、いたされ候ふかな。
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===== 翻刻 =====
一 河内の国に交野といふ所ありかた野の
御狩とかけるこれ也彼領主に大塚彦兵衛
とかやいふてあたりまて崇敬の人ありき
宗祇と入魂他にことなり卯月のはしめ
つかた祇公たちより給ひ休息のほとありし/n2-16l
いろいろ風流の物語に時うつりてなにと
祇公はいまた郭公のはつ音をは聞給はぬや
いな夢にたにもをとつれすとあり大塚さらは
われ発句を仕なかせんとて
なけやなけわか領内の郭公
とあれは祇公の脇に
孫子をつれてなけ時鳥
第三をする人なし迚の事にさた候へとあれ
は又祇公/n2-17r
とにかくに御意にしたかへ郭公
時にあたり人の心をやふらんは興さめて見えぬ
へし祇公のあいさついたされ候かな/n2-17l