[[index.html|醒睡笑]] 巻1 祝ひ過ぎるも異なもの ====== 12 江州の坂本に侍あり元日の夜湖をひき傾けて飲むと夢見る・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho1-143|<>]] 江州の坂本に侍あり。元日の夜、湖((琵琶湖))をひき傾けて飲むと夢見る。目覚めて思ふ、「水は方円の器にしたがふなれば、思ふに『思ふことかなはん』といふ告げなるかや」と。 この心占(こころうら)にてよかりしものを、わが身が比叡(ひえ)の山風に吹かれ、行く道遠く土御門((土御門家。「土御門」は底本「公御門」。諸本により訂正。))を尋ね、占方(うらかた)の上手といふに立ち寄りぬれば、晴明流(せいめいりう)の博士、「まづ夢の相をお語りあれ。その言句(ごんく)にたより、吉凶を申さん」と。件(くだん)のさまをありのままなり。 時・支干(しかん)を考へ、調子をはかり、書籍(しよじやく)を巻(ま)いつ開(ひら)いつして、あげくに、「まづ案じても御覧ぜよ、寒夜(かんや)には水を一口・二口飲むだにも腹中(ふくちう)に当たるは習ひぞかし。いはんや、湖水をみな飲むとあれば、よきに養生なされよ。大略(たいりやく)、腹をわづらひ給ふことあらん」と申しあへり。 不興の((「不興の」は底本小書き。))。 [[n_sesuisho1-143|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 江州の坂本に侍あり元日の夜湖(みつうみ)をひきかた/n1-72r   むけてのむと夢見る目さめておもふ水は方   円の器にしたかふなれはおもふに思ふ事か   なはんといふつけなるかやと此心うらにてよか   りし物をわか身はひえの山風にふかれ行道とを   く公御門を尋占方(うらかた)の上手といふにたちよりぬ   れは晴明流(せいめいりう)のはかせまつ夢の相をおかたり   あれ其言句にたより吉凶を申さんと件   の様をありの儘(まま)なり時支干(しかん)をかんかへ   調子(てうし)をはかり書籍(しよしやく)をまいつひらいつして/n1-72l   あけくにまつ案しても御覧せよ寒夜(かんや)には   水を一口二口のむたにも腹中にあたるはなら   ひそかしいはんや湖水(こすい)をみなのむとあれは   よきに養生なされよ大略(たいりやく)腹を煩(わつらひ)給ふ事あらん   と申あへり 不興の/n1-73r