[[index.html|醒睡笑]] 巻1 鈍副子 ====== 15 福は宿善の果なれば鈍なる人にままたのしきあり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho1-111|<>]] 福は宿善(しゆくぜん)の果(くわ)なれば、鈍なる人に、ままたのしきあり。 堺にて、さる町人家を建てしが、蔵にも居間にも対面所(たいめんじよ)にも、ただ九間四方の塗り屋一つ造り、戸口を都合一つあけけり。見る人、笑ひ讃嘆(さんだん)する。 知音の者、笑止(せうし)がりて、「この大きなる家に出入口一つあらんは、無下(むげ)に不覚(ふがく)のいたりなり。火事といひ何はにつけ、せめて裏と表に二つなうてはかなはぬことや」と言ひければ、かの亭主の返答に、「せんない異見や。われは一口さへあけまいと思うたもの」 夢庵((肖柏。ただし、肖柏の句は付句「くちなしに・・・」の方。))   いかなる罪の今報ふらん   くちなしに咲くこそ花もかなしけれ [[n_sesuisho1-111|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 福(ふく)は宿善(しゆくせん)の果(くわ)なれは鈍なる人にままたのし   きあり境(さかい)にてさる町人家をたてしがくら   にも居(ゐ)間にも対面所(たいめんしよ)にも唯九間四方(しはう)のぬり/n1-53l   屋一つつくり戸口を都合一つあけけり見   る人わらいさんだんする知音の者笑止(せうし)かり   て此大なる家に出入口一つあらんはむけに   不覚のいたり也火事といひなにはにつけせめて   うらとおもてに二つなふてはかなはぬ事やと   いひけれは彼亭主の返答にせんない異見や   われは一口さへあけまいとおもふた物 夢庵     いかなる罪のいまむくふらん    くちなしに咲こそ花もかなしけれ/n1-54r