[[index.html|醒睡笑]] 巻1 鈍副子 ====== 14 石州銀山にてのことぞとよ・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho1-110|<>]] 石州銀山((石見銀山))にてのことぞとよ。常に寄り合ひぬる者、一人入道((「入道」は底本「入へ」に「道か」と朱書で注。諸本により訂正。))し、法名を芝恩(しおん)とつく。友達鈍なる男ありて、つひに芝恩といふ名を忘れ、「お禅門、お禅門」と呼ぶ。禅門腹立(ふくりふ)し、「紫苑(しをん)といふ草あり。見られたことはなきか」。「いや、まだ見ぬ((「見ぬ」は底本「見ゐ」。諸本により訂正。))と。「さらば見せん」とて連れだち、ある人の前栽(せんざい)へ行き、紫苑と射干(しやが)と花咲きてありしを、「これは紫苑、これは射干といふ」と教へ、「この紫苑の花の名をよく覚ゆれば、わが名と同じことぞ。忘れ給ふな」と言ひ含めて帰りぬ。 件(くだん)の男、領掌(りやうじやう)しけるが、また二・三日ありて後寄り合ひし時、紫苑をばうち忘れ、「さてもしやが、お久しい((「お久しい」は底本「おひたしい」。諸本により訂正。))」と申したり。 [[n_sesuisho1-110|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 石州銀山にての事そとよ常によりあひ   ぬる者一人入へ(道か)し法名を芝恩(しをん)とつく友達(ともだち)   鈍なる男ありてつゐに芝恩といふ名をわ   すれお禅門お禅門とよふ禅門腹立ししをんと   いふ草あり見られた事はなきかいやまた見   ゐとさらば見せんとてつれたちある人の   前栽(さい)へ行しおんとしやかど花さきてありし/n1-53r   をこれはしおんこれはしやかといふとをしえ   此しおんの花の名をよくおほゆれは我かなと   同しことそわすれ給ふなといひふくめてかへりぬ   件の男領掌しけるか又二三日ありて後より   あひし時しおんをはうちわすれさてもしやか   おひたしいと申したり/n1-53l