[[index.html|醒睡笑]] 巻1 鈍副子 ====== 12 鈍なる男兵庫の町を通りけるに黒犬の大きなるが出でて・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho1-108|<>]] 鈍なる男、兵庫の町を通りけるに、黒犬の大きなるが出でて、したたかにすねを食らひけり。「あらかなしや」といふ声聞きつけ、犬の主、追ひ散らしぬ。 この男、せんかたなく無心なることに思ひつづけ、尼崎まで来たりしが、黒きゑのこのあるを見付け、ひたもの蹴つ踏みけるを、主人出で合ひ、「これは曲者なり。何の咎(とが)にさやうにはするぞ。打て、叩け」と人集まりたれば、「まつぴら御免候へ。兵庫で足を黒犬に食らはれたる無念の腹をゐんとて蹴た」とこそ。 [[n_sesuisho1-108|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 鈍なる男兵庫の町をとをりけるに黒   犬の大なるが出てしたたかにすねをくらひけ   りあらかなしやといふ声聞つけ犬の主をひちら   しぬ此男せんかたなく無心なる事におもひつつ   け尼か崎まできたりしかくろきゑのこの   あるを見つけひた物けつふみけるを主人   出合これはくせもの也なにのとかにさやうには/n1-52r   するぞうてたたけと人あつまりたれはまつび   ら御免候へ兵庫で足をくろ犬にくらはれ   たる無念の腹をゐんとてけたとこそ/n1-52l