[[index.html|醒睡笑]] 巻1 鈍副子 ====== 5 洛陽にて浄土宗の寺へある尼公の参られ一人の弟子を呼び出だし・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== [[n_sesuisho1-101|<>]] 洛陽にて浄土宗の寺へ、ある尼公の参られ、一人の弟子を呼び出だし、「十念を受けたきよし、披露して賜び候へ」とありしかば、「心得たる」とて、方丈に行き「下京(しもぎやう)にて、何といふ人の女人(によにん)の参りにて」と申しもあへぬに、長老、歯を出だし、「上臈とか女房とこそ申すべけれ。女人といふことやある」と、大きに叱られ、弟子の返答に、「そなたはわれに阿弥陀経を教へて、『善男子善女人(ぜんなんしぜんによにん)と言へ』と言うておいて、今はまたさう言はぬとは一事多様なることを」など、さんざんにからかひて、おもてへ出でける時、尼公赤面し、「笑止や。お機嫌の悪しき音する。下向せんや」と申されたれば、弟子言ふ、「いや苦しうも候はず。ちと女房ごとの出で入りでござある」と。 [[n_sesuisho1-101|<>]] ===== 翻刻 ===== 一 洛陽にて浄土宗の寺へある尼公の参られ   一人の弟子をよび出し十念をうけたき   よしひろうしてたひ候へとありしかはこ   ころへたるとて方丈に行下京にてなに   といふ人のによにんの参りにてと申もあ   へぬに長老はを出し上臈とか女房とこそ   申へけれによにんといふ事やあると大/n1-48r   にしかられ弟子の返答にそなたは我に阿弥   陀経ををしへて善男子善女人といへといふ   ておゐて今は又さういはぬとは一事多様   なる事をなとさんさんにからかひておもて   へ出ける時尼公赤面しせうしやお機(き)   嫌(けん)のあしきをとする下向せんやと申され   たれは弟子いふいやくるしうも候はすちと   にうはうことのいていりで御座あると/n1-48l