[[index.html|醒睡笑]] 巻1 ふはとのる
====== 1 忿怒の前には不動剣をひつさげて降魔の儀を示すことあり・・・ ======
===== 校訂本文 =====
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忿怒(ふんぬ)の前には、不動((不動明王))、剣をひつさげて降魔(がうま)の儀を示すことあり。さればにや、昔、五山の僧に、幸蔵主(かうざうす)とて兵法の道に達せし人あり。京に上る達者、みな一打ち二打ち打たぬはなかりしに、ある時、奥山流の兵法者(ひやうほふしや)上洛しけり。例のごとく試合の日定まりぬ。
京中、知るも知らぬも、ことごとく物見に出づるに、幸蔵主は鑓(やり)、兵法者は太刀にて向かふ。鑓をさつと振り回すを見て、そのまま太刀を投げ捨て問訊(もんじん)しけり。
「こは何事ぞや」と問へば、「幸の鑓先より火焔出でたり。活身(くわつしん)の摩利支天(まりしてん)なり。尊(たつと)きに太刀を捨つ」と言ひければ、幸、大きに悦喜し、みづから勧めて、かの兵法者に弟子どもあまた引き付けたり。のせすまいた上手。
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===== 翻刻 =====
ふはとのる
一 忿怒(ふんぬ)の前には不動釼をひつさけて降
魔(ま)の儀をしめす事ありされはにや昔五山
の僧に幸蔵主(かうさうす)とて兵法の道に達せし人
あり京にのほる達者みな一打二打うたぬ
はなかりしに或時奥山流の兵法者上洛し
けり例(れい)のことくしあひの日さたまりぬ京中
知もしらぬもことことく物見に出るに幸蔵
主は鑓兵法者は太刀にてむかふ鑓をさつと/n1-38r
ふりまはすを見て其儘太刀をなげすて
問訊(もんしん)しけりこは何事そやととへは幸の鑓
先(さき)より火焔(くわゑん)出たり活身(くわつしん)の摩利支天(まりしてん)なり
たつときに太刀をすつといひけれは幸大に
悦喜しみつからすすめて彼兵法者に弟子
ともあまたひきつけたり のせすまいた上手/n1-39r