無名抄 ====== 第78話 五日かつみをふく事 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 五日かつみをふく事 ** ある人いはく、「橘為仲、陸奥国(みちのくに)の守にて下りけるとき((底本「くたりたるけるとき」。諸本により訂正))、五月五日、家ごとに菰(こも)を葺(ふ)きければ、あやしくてこれを問ふ。その時庁官((底本「广官」とあり「チヤウクワン」と傍注))いはく、『この国には、昔より、今日菖蒲(さうぶ)葺くといふことを知らず。しかあるを、故中将の御館(みたち)の御時、『今日は菖蒲(あやめ)葺くものを。尋ねて葺け』と侍りければ、この国には菖蒲(さうぶ)無きよしを申し侍りけり。その時、『さらば、安積(あさか)の沼の花かつみといふ物あらん。それを葺け』と侍りしより、かく葺き初めて侍るなり』とぞ言ひける。中将の御館といふは、実方の朝臣なり。(([[u_mumyosho079]]に続く)) ===== 翻刻 ===== 五日カツミヲフク事 或人云橘為仲みちの国のかみにてくたりたる けるとき五月五日いへことにこもをふきけれは あやしくてこれをとふその時广官(チヤウクワン)云この 国には昔よりけふさうふふくと云ことをしらす/e79r しかあるを故中将のみたちの御時けふは あやめふく物をたつねてふけと侍けれはこの 国にはさうふなきよしを申侍けりその時 さらはあさかのぬまの花かつみといふ物あらん それをふけと侍しよりかくふきそめて 侍也とそいひける中将のみたちといふはさねかた の朝臣也/e79l