無名抄 ====== 第58話 俊成自讃歌事 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 俊成自讃歌事 ** 俊恵いはく、「五条三位入道のみもとにまでたりしついでに、『御詠の中にはいづれをか優れたりと思す((「思す」、底本「おもふす」。諸本により訂正))。人はよそにて様々(やうやう)に定め侍れど、それをば用ゐ侍るべからず。まさしく承はらん」と聞こえしかば、   『夕されば野辺の秋風身にしみて鶉(うづら)鳴くなり深草の里 これをなん、身にとりて面歌(おもてうた)と思ひ給ふる』と言はれしを、俊恵またいはく、『世あまねく人の申し侍るには、   面影に花の姿を先立てて幾重(いくえ)越え来ぬ峰の白(しら)雲 これを優れたるやうに申し侍るはいかに』と聞こゆ。『いさ、よそにはさもや定め侍らん。知り給へず。なほ、みづからは先の歌には言ひ較ぶべからず』とぞ侍し」と語りて、これをうちうちに申ししは、(([[u_mumyosho059]]に続く)) ===== 翻刻 ===== 俊成自讃哥事 俊恵云五条三位入道のみもとにまてたりし つゐてに御詠のなかにはいつれをかすくれたりとおも ふす人はよそにてやうやうにさため侍れとそれをは もちゐ侍へからすまさしくうけ給はらんときこえしかは ゆふされは野辺の秋風身にしみて うつらなくなりふかくさのさと これをなん身にとりておもて歌とおもひ給ふると いはれしを俊恵又云世あまねく人の申侍には/e49r おもかけに花のすかたをさきたてて いくへこえきぬみねのしら雲 これをすくれたるやうに申侍はいかにときこゆいさ よそにはさもやさため侍らんしり給へすなをみつか らはさきの歌にはいひくらふへからすとそ侍しと かたりてこれをうちうちに申しは/e49l