無名抄 ====== 第42話 蘇合の姿 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 蘇合のすがた ** そもそも、楽の中に蘇合といふ曲あり。これを舞ふには、五帖まで帖々をきれぎれに舞ひ終りて後、破を舞ふ。やがて続けて急を舞ふべきに、急の始め一反をば、まことに舞ふことなし。形のごとく拍子ばかりに足を踏み合はせて、うち休みつつ、二反の始めよりうるわしくて舞ふなり。 このけすらひは、違はぬ半臂(はんぴ)の句の心なり。歌と楽と道異なれど、めでたきことはおのづから通(かよ)へるなるべし。通はして知らざらん人は、何とかは思ひ分かむ。形のごとく、両方を心得て思ふためには、殊(こと)に興((底本「典興」。字形の類似による衍字か。諸本に「典」がないのに従う。))あることなり。 されば、蘇合をば「半臂の句ある舞ひ」といふ。この歌のさまをば「蘇合の姿」ともいひてんかし。 ===== 翻刻 ===== 蘇合ノスカタ 抑楽の中に蘇合といふ曲ありこれをまふ には五帖まて帖々をきれきれにまひおはりて のち破をまふやかてつつけてきうをまふへきに 急のはしめ一反をはまことにまふことなしかたの ことく拍子はかりにあしをふみあはせてうち/e36r やすみつつ二反のはしめよりうるわしくてまふ也 このけすらひはたかはぬ半臂の句の心也哥と楽と みちことなれとめてたきことはおのつからかよへるなる へしかよはしてしらさらん人はなにとかはおもひ わかむかたのことく両方を心ゑておもふためには ことに典興あることなりされは蘇合をは半臂の 句あるまひといふこの哥のさまをは蘇合のすかたとも いひてんかし/e36l