蒙求和歌 ====== 第14第14話(214) 任座直言 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 任座直言 ** 魏の文侯と申すおほやけ、群臣を召して、「われと昔のおほやけと如何(いかん)」と問ひ給ふに、みな、「賢君なり」と讃め申しけり。 次第に問はるるに、任座に至りて、賢君におはせず」と申しけり。ゆゑを問はるるに、「中山を討ち取りては、弟に封じ給はずして、王子に封じ給へり」と答へ申しけければ、文侯、怒りて、追ひ立てられにけり。 次、翟璜にいたりて、「賢の君におはす」と申す。ゆゑを問はるるに、「臣聞く((「臣聞く」は底本「臣キ」。文脈によって補う。))、その君、賢なる時は、その臣、直なり。任座が答へ申す言葉の直なるは、君、賢なればなり」と申しけるとき、文侯、ことはりを喜びて、任座を召して返して、拝して上卿とし給ひけり。   天の原道なき空をうしと見し心は月のとがむべきかは ===== 翻刻 ===== 任座直言  魏ノ文侯トマウスヲホヤケ群臣ヲメ/シテワレトムカシノヲホヤケトイカムトトヒ タマフニミナ賢君ナリトホメ申ケリ次第ニトハルルニ任座ニイ タリテ賢君ニヲハセスト申ケリユヘヲトハルルニ中山ヲウチト リテハ弟ニ封シタマハスシテ王子ニ封シタマヘリトコタヘ申ケ ケレハ文侯イカリテヲイタテラレニケリ次翟璜ニ□タリキ/d2-44r 賢ノキミニヲハスト申ユエヲトハルルニ臣キ其君賢ナル トキハ其臣直ナリ任座カコタヘ申コトハノ直ナルハ君賢ナレハナリト 申ケルトキ文侯コトハリヲヨロコヒテ任座ヲ召シテ返シテ拝シテ上卿ト シ給ヒケリ アマノハラミチナキソラヲウシトミシ心ハ月ノトカムヘキカハ/d2-44l