蒙求和歌 ====== 第10第15話(145) 柳下直道 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 柳下直道 ** 柳下恵、字(あざな)は展禽((「展禽」は字ではなく本名。字は季))。家に柳あり、身、恵徳あり。このゆゑに柳下恵とは名付けけり。 魯の典獄官として、道直(なほ)うして仕ふるに、群邪、これか素直(すなほ)なるを憎むゆゑに、三度(みたび)黜(しりぞ)けられたり。 ある人、「魯の国をば去るべからすや」と問ひければ、「世みな邪なり。道を直くして人に事(つか)へば、至らむ所の国、いづくにてか三度(みたび)黜(しりぞ)けられざらむ。身をまげては人に事へましかば、魯にありて黜(しりぞ)けられざらまし。何ぞ必ずしも父母の所居の国を去らむや」とぞ答へける。   かひなしや人もすさめぬ柳かげ心ひとつの道はあれども ===== 翻刻 ===== 柳下直道 柳下恵アサナハ展(テム)禽(キム)家ニ柳アリ身恵/徳アリコノユヘニ柳下恵トハナツケケリ 魯ノ典獄官トシテミチナヲウシテツカフルニ群邪コレカス ナヲナルヲニクムユヘニ三タヒ黜(シリソケラレ)タリアル人魯ノ国ヲハサルヘカラス/d2-16l ヤトトヒケレハ世ミナ邪ナリ直(シテ)道事ヘハ人ニイタラム所ノ国イツクニ テカミタヒシリソケラレサラムミヲマケテハ人ニツカヘマシカハ 魯ニアリテシリソケラレサラマシ何ソ必スシモ去ラム父母ノ所居之国ヲ ヤトソコタヘケル カヒナシヤ人モスサメヌヤナキカケ 心ヒトツノ道ハアレトモ/d2-17r