蒙求和歌 ====== 第10第10話(140) 田方簡傲 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 田方簡傲 ** 田子方、魏に行く。魏の太子、郊に迎ふ。子方、車より下りずして、驕(おご)れるさまなるを、太子、咎めていはく、「貧賤者は人に驕るか」。子方、答へていはく、「天下を以て人に驕る。天下を失ふ。富貴を以て人に驕る。富貴を失ふ。ただ貧賤にして、以て人を驕るべし。言従はず、行合はざれば、則ち履を授けて秦楚に適(ゆ)かむ。安んぞ、往きて貧賤を得ざるや」。 またいはく、「田子方は魏文侯の師なり。文王、太子を中山に封ず。路に子方に逢ふ。車より下りて礼謁す。子方、礼を為さず。太子、悦ばすして、問ひて曰く、『富貴の者、人に驕るか。貧賤の者、人に驕るか」。子方曰く、「国君として人に驕れば、則ちその国を失なふ。大夫として驕れば、則ち家を失ふ。貧賤の者の、行き合はず、言用ゐられざれば、則ち安んぞ往きて貧賤を得ざるや」。   とかめずは心の内を知らましや行きあふさかの((底本「ユキアウサトノ」。文脈により訂正。))関の旅人 ===== 翻刻 ===== 田方簡傲  田子方魏ニユク魏ノ太子迎(ムカフ)/於郊ニ子方車ヨリヲリスシテヲ コレルサマナルヲ太子トカメテ云貧賤(セムノ)者ハ驕(ヲコル)人ニ乎子方 コタヘテ云ク以テ天下ヲ驕(ヲコル)人ニ失フ天下ヲ以冨貴驕人失冨 貴ヲ唯貧賤ニシテ可以驕人言不従行不合則授テ 履ヲ適(ユカム)秦楚安往而不得貧賤哉/d2-14l 又云田子方魏文侯ノ師也文王太子封中山ニ路ニ逢 子方ニ下リテ車ヨリ礼謁ス子方不為礼ヲ太子不(スシテ)悦(ハ)問曰 富貴者驕人乎貧賤者驕人乎子方曰国君トシテ 人ニヲコレハスナハチソノ国ヲウシナフ大夫トシテヲコレハスナハチ 家ヲウシナフ貧賤ノ者ノ行不合言不用則安往而 不得貧賤乎 トカメスハ心ノ内ヲシラマシヤ ユキアウサトノセキノタヒ人/d2-15r