蒙求和歌 ====== 第4第4話(59) 閔損衣単 霜 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 閔損衣単 霜 ** 閔損((閔子騫))は孝子なり。父の後(のち)の妻(め)の腹に、二人の子あり。後の妻、閔損を憎みて、「わが二人の子をのみ、世にあらせむ」と思へり。 二人の子は、綿入れたる衣(ころも)を着せ、閔損には、葦の花を入れたる衣を、ただ単衣着せたり。冬の夜、父の車を寄するに、手凍(こご)えて、靷(むながひ)を落してけり。父、責めて、罪に行ふに、答ふることもなし。 後に、父の後の妻の((「後の妻の」は底本「先ノ妻ノ」。諸本により訂正。))、継子(ままこ)のために情けなきことを悟り得て、別れ去りなむとするを、閔損、歎きていはく、「母のおはするには、一人の子こそ寒けれ。母無くは、三人の子、寒かりなむ」と言ふに、父、理(ことわり)を知りて、思ひたゆみにけり。 継母、この情けを嬉しと思ひ知り、三人の子を同じさまに育みけり。   衣手の森の((底本「森の」なし。[[http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he04/he04_08133/index.html|早稲田大学蔵本]]・[[http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he04/he04_08133/he04_08133_0002/he04_08133_0002_p0007.jpg | 該当ページ]]により補う。なお、書陵部本二本は別の歌になっている。))梢は初霜にうらがれゆくをあはれとぞ見る ===== 翻刻 ===== 閔損衣単 霜 〃〃ハ孝子ナリチチノノチノメノハラニフタリノコ有リノチノメ/d1-30r 閔損ヲニクミテ我カフタリノ子ヲノミ世ニアラセムトヲモヘリ フタリノコハ綿入タルコロモヲキセ閔損ニハ蘆ノ花ヲ入タルコロ モヲタタヒトヘキセタリ冬ノヨチチノクルマヲヨスルニ手ココヘテ 靷(ムナカヒヲ)ヲトシテケリチチセメテツミニヲコナフニコタフル事モナシ 後ニ父ノ先ノメノママコノタメニナサケナキコトヲサトリエテ ワカレサリナムトスルヲ閔損ナケキテ云クハハノヲハスルニハ 一(ヒトリノ)子コソサムケレ母ナクハ三人ノコサムカリナムト云ニ チチコトハリヲシリテ思タユミニケリママハハコノナサケヲ ウレシト思シリ三人ノ子ヲヲナシサマニハククミケリ コロモテノコスヘハハツシモニウラカレユクヲアハレトソミル/d1-30l