蒙求和歌 ====== 第4第2話(57) 震畏四知 落葉 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 震畏四知 落葉 ** 楊震、東莱の大守として任に赴くに、昌邑といふ所を過ぎけり。昌邑県の令、王密といへるは、昔、楊震が秀才に挙せし((「挙せし」、底本「し」虫損。諸本により補う。))人なり。 王密、金を懐(ふところ)に入れて、求め来たりて、これを与ふるに、楊震、受けず。王密がいはく、「昔の情(なさけ)を報ゆるなり。人の知れるなければ、世に聞こゆべきにあらず」とねんごろに言へり。 楊震、答へていはく、「天知れり、地知れり、なんぢ知れり、われ知れり。すでに四知あり」。さて、つひに受けず。   散らさじといはせの杜(もり)のもみぢ葉もあらしはそらは知らずしもあらじ ===== 翻刻 ===== 震畏四知 落葉 楊震東莱ノ大守トシテ任ニヲモムクニ昌邑(イフ)ト云所ヲスキ/d1-29l ケリ昌邑県ノ令王密トイヘルハ昔楊震カ秀才(シユサイニ)挙(キヨ)セ□ 人也王密金ヲフトコロニ入テ求キタリテコレヲアタフルニ楊 震ウケス王密カ云ク昔ノナサケヲムクユルナリ人ノシレル ナケレハヨニキコユヘキニアラストネムコロニ云リ楊震コタ ヘテ云ク天シレリ地シレリ汝シレリワレシレリステニ四知有リ サテツヰニウケス チラサシトイハセノモリノモミチハモアラシハソラハシラスシモアラシ/d1-30r