蒙求和歌 ====== 第4第1話(56) 盛吉垂泣 初冬 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 盛吉垂泣 初冬 ** 盛吉は廷尉なり。冬の節を迎ふるごとに、いましめける罪人(つみびと)を、裁(ことは)り注(しる)しけり((「注しけり」は底本「シ□シケリ」で一字虫損。書陵部本二本により補入))。 夜な夜なみづから巡りて、おのおのが形(かたち)を見るに、笞(しもと)の跡をやもへるもあり。鉄鎖(かなぐさり)に痛めるもあり。親を恋ひ、子を恋ふるもあり。寒きを憂へ飢ゑを憂ふるもあり。 盛吉は筆を取りて泣き、妻は灯火(ともしび)を取りて泣く。共に涙を流しけり。   灯火の影冴ゆる夜の明くるまで((「明くるまで」は底本「アク□□テ」。二字虫損。書陵部本(桂宮本)により補う。))人のやみ問ふ冬は来にけり ===== 翻刻 ===== 盛吉垂泣(セイキチスイキウ) 初冬 〃〃ハ廷尉(テイヰ)ナリ冬ノ節ヲムカウルコトニイマシメケルツミ人ヲ コトハリシ□シケリヨナヨナミツカラメクリテヲノヲノカカタチヲミル ニシモトノアトヲヤモヘルモアリカナクサリニイタメルモアリ ヲヤヲコヒ子ヲコフルモアリサムキヲウレヘウエヲウレウ ルモアリ盛吉ハ筆ヲトリテナキ妻ハトモシ火ヲトリテ ナクトモニナミタヲナカシケリ トモシヒノカケサユルヨノアク□□テ人ノヤミトフ冬ハキニケリ/d1-29l