蒙求和歌 ====== 第2第2話(22) 孟嘗還珠 卯花 ====== ===== 校訂本文 ===== ** 孟嘗還珠 卯花 ** 後漢の孟嘗、字は伯周といへり。合浦の太守たり。郡には田をなんど作ることもなし。珠ばかりを宝として、世を渡る所なり。 前の司、政(まつりごと)横ざまして、人をわづらはし、珠を貪(むさぼ)るゆゑに、人、退き、珠((底本「玉」。))、交趾(かうし)に移りにけり。 孟嘗、心、清潔にして、貪る心なきゆゑに、退きにし人、来たり住み。去りにし珠、還りにけり。郡、富み栄えて、昔のごとしと言へり。   荒れはてし垣(かき)の卯つ木も花咲きて昔にかへる玉川の里((書陵部本(桂宮本)「しばしこそ世を卯の花のしそめども昔にかへる玉川の里」)) ===== 翻刻 ===== 孟嘗還珠 卯花 後漢孟嘗字ハ伯周ト云リ合浦ノ大守タリ郡ニハ田ヲ ナムトツクル事モ無シ珠許ヲ宝トシテ世ヲワタル所ナリ 前ノツカサマツリコトヨコサマシテ人ヲワツラハシ珠ヲムサホル 故ニ人シリソキ玉交趾ニウツリニケリ孟嘗心清潔ニシテ ムサホルココロナキ故ニシリソキニシ人来リスミサリニシ珠返リ ニケリ郡トミサカエテ昔ノ如シト云リ アレハテシカキノウツキモ花サキテ昔ニカヘルタマカハノサト/d1-16r