古本説話集 ====== 第18話 樵夫の事 ====== **樵夫事** **樵夫の事** ===== 校訂本文 ===== 今は昔、木こり、山守に斧(よき)を取られて、「わびし、心憂し」と思ひゐて、頬杖(つらつえ)うちつきてをり。山守見て、「さるべき事を申せ。取らせむ」と言ひければ、 悪しきだになきはわりなき世の中によきをとられて我いかにせん と詠みたりければ、山守「返しせむ」と思ひて、「うううう」とうめきけれど、えせざりけり。さて、よき返し取らせてければ、「うれし」と思ひけりとぞ。 「人はただ、歌をかまへて詠むべし」と見えたり。 ===== 翻刻 ===== いまはむかし木こり山もりによきをとられ/b58 e29 てわひし心うしと思ゐてつらつえうちつ きてをり山もりみてさるへき事を申せとらせむ といひけれは あしきたになきはわりなき世の中に よきをとられて我いかにせん とよみたりけれは山もりかへしせむと思ひて 「うううう」とうめきけれとえせさりけりさてよき かへしとらせてけれはうれしとおもひけり とそ人はたたうたをかまへてよむへし と見えたり/b59 e29