十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事 ====== 10の29 同じき御宇橘直幹か民部大輔を望み申しける申文をば・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 同じき御宇(([[s_jikkinsho10-28|前話]の「天暦の御時」を指す。村上天皇の御代。]))、橘直幹か民部大輔を望み申しける申文をば、みづから書きて、小野道風に清書せさせけり。 上((村上天皇))、御覧ぜられけるに、   依人而異事((底本「事異」。諸本により訂正。))、雖似偏頗   代天而授官、誠懸運命 など、述懐の詞を書き過ぐせるによりて、御気色悪しかりけり。 人、これをおそれ思ふところに、そののち、内裏焼亡に、にわかに中院へ幸せさせ給ひたるに、代々の御渡物、御倚子・時の簡・玄象・鈴鹿以下、持て参りたるを御覧じて、「直幹申文は取り出でたりや」と御尋ねありける。 時の人、いみじきことにぞ申しける。 ===== 翻刻 ===== 廿八同御宇、橘直幹カ民部大輔ヲ望申ケル申文ヲハ自書/k68 テ小野道風ニ清書セサセケリ、上御覧セラレケルニ、 依人而事異雖似偏頗代天而授官誠懸運命 ナト述懐ノ詞ヲ書スクセルニ依テ、御気色アシカリケリ、人 是ヲ恐思所ニ、其後内裏焼亡ニ俄ニ中院ヘ幸セサセ給タ ルニ、代々ノ御渡物御倚子時ノ簡玄象鈴鹿以下モテマイ リタルヲ御覧シテ直幹申文ハ取出タリヤト御尋有ケル、 時ノ人イミシキ事ニソ申ケル、/k69