十訓抄 第四 人の上を誡むべき事 ====== 4の9 二条院御遊びありけるに呂をかりて律に移りけるとき・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 二条院、御遊びありけるに、呂をかりて、律に移りけるとき、御門、御琵琶にて、将律の音を弾かせ給ひけるに、ただうち聞けば、呂を調べにて、律の声弾くべきやうもなければ、「御失錯」と、しかるべき人々、かたぶき給ひけり。 ことはてて後、御帰りありて、「律にならむとする時、将律の音を弾くは定まれることなり。おのおの、かたぶき申す旨(むね)、いかに」と、仰せごとありければ、みな口を閉ぢて、述べ申す人なかりけり。 ===== 翻刻 ===== 二条院御遊アリケルニ、呂ヲカリテ律ニウツリケル 時、御門御比巴ニテ将律ノ音ヲヒカセ給ケルニ、只打 聞ハ呂ヲ調ヘニテ、律ノ声ヒクヘキヤウモナケレハ、 御失錯ト可然人々カタフキ給ケリ、事ハテテ後御 帰アリテ、律ニナラムトスル時、将律ノ音ヲヒクハ定 レル事也、各傾申旨イカニト仰事有ケレハ、皆口ヲ/k161 閉テノヘ申人ナカリケリ、/k162