十訓抄 第三 人倫を侮らざる事 ====== 3の序 ある人いはく人をあなづることは色は変れども・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== **第三 人倫を侮らざる事** ある人いはく、人を侮(あなづ)ることは、色は変れども、必らずあることなり。 あるいは、貧しく((底本「貧ししく」。衍字とみて訂正。))賤しきをも侮る。 あるいは、不覚なるをも侮る。 下りざまなるをも侮りて、すること、言ふことをも、「さばかりにこそ」と思へり。 あるいは、親しみ、むつるるをも侮り、おほかた不運なるものをば、所行・事柄、よからぬやうに思ひ、賤しきものは振舞ひごと、いたつらごとと思へり。 これは無智の人のあることなり。これによりて、言ふまじき言をも言ひ、すまじきわざをも振舞ふほどに、侮る葛(かづら)に倒(たふ)れして、思はざるほかの辱(は)ぢがましきことにもあひ、言はるまじき者にも言はれぬれば、人に軽(かろ)く思ひけがされ、心劣りせらるるなり。 孤児・寡婦なりとも欺くべからず。重く本文の心を信ずべし。人々、とりてかたく執すべきことなり。 ===== 翻刻 ===== 第三不侮人倫事 或人云、人ヲアナツル事ハ色ハカハレトモ、必有事也、或貧シ/k111 シク賤ヲモ慢ル、或ハ不覚ナルヲモ慢ル、サカリサマナルヲ モ慢テ、スル事云事ヲモサハカリニコソト思ヘリ、或ハシ タシミムツルルヲモアナツリ、大方不運ナルモノヲハ所行 事カラヨカラヌヤウニ思、イヤシキモノハ振舞事イ タツラコトト思ヘリ、是ハ無智ノ人ノアル事也、依之云 マシキ言ヲモ云、スマシキワサヲモ振舞フホトニ、アナ ツルカツラニタフレシテ、思ハサル外ノ辱カマシキ事ニ モアヒイハルマシキモノニモイハレヌレハ、人ニカロク思ケ カサレ心ヲトリセラルル也、孤児寡婦ナリトモ欺ク ヘカラス、オモク本文ノ心ヲ信スヘシ、人々トリテ堅ク/k112 執スヘキ事也、/k113