十訓抄 第一 人に恵を施すべき事 ====== 1の49 落度もさることにてさし過ぎたる振舞ひ目に立ちて悪しきことなり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 落度もさることにて、さし過ぎたる振舞ひ、目に立ちて悪しきことなり。源氏物語にあるかとよ、柏木右衛門督の妹、近江君、さし過ぎ、かたはらいたかりけんこそをかしけれ。 大江時棟、宇治殿((藤原頼通))の蔵人所につらなれる日、雅康((平雅康))が左衛門佐にて、文字を来問ひけるぞ、時棟、答へざりけり。 かたはらなる範国朝臣((平範国))いはく、「時棟、課試及第二ヶ度なり。今始めて文字を問ふべきにあらず。きはめたる痴者(しれもの)なり」とぞ言ひける。 ===== 翻刻 ===== 侍従ナトツケラレタルハ、優ニ覚ユカシ、越度モサル事 ニテサシスキタル振舞目ニタチテアシキ事也、源 氏物語ニアルカトヨ、柏木右衛門督ノ妹近江君サシスキ カタ腹イタカリケンコソオカシケレ 大江時棟宇治殿蔵人所ニツラナレル日、雅康カ左衛門 佐ニテ文字ヲ来問ケルソ時棟答ヘサリケリ、カタ ハラナル範国朝臣云時棟課試及第二ヶ度也、今始 テ文字ヲ問ヘキニ非ス、極タル白物ナリトソ云ケル、/k92