十訓抄 第一 人に恵を施すべき事 ====== 1の46 源経兼下野守にて在国の時ある者便書を持て雑事など乞ふに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 源経兼、下野守にて在国の時、ある者、便書を持(も)て、雑事など乞ふに、おほかたたよりなき由(よし)など言ひて、はかばかしきこともせねば、冷然として、二三町はかり行くを、人を走らかして、「さらば」と呼び返しければ、「不便なりとて、しかるべき物など、賜(た)ぶべきか」と思ひて帰りたるに、経兼いはく、「あれ見給へ。室の八島はこれなり。都にて人々に語り給へ」と言ふ。いよいよ腹立気ありて、帰りにけり。 これもまた、かたはらいたく、をかし。 ===== 翻刻 ===== 源経兼下野守ニテ在国ノ時、或者便書ヲモテ雑 事ナト乞ニ、大方タヨリナキ由ナト云テ、ハカハカシキ事 モセネハ、冷然トシテ、二三町ハカリ行ヲ、人ヲ走カシテ サラハトヨヒカヘシケレハ、不便ナリトテ然ヘキ物ナ トタフヘキカト思テ帰タルニ、経兼云アレ見給ヘ室ノ 八島ハ是也、都ニテ人々ニ語給ヘト云、イヨイヨ腹立気有 テ帰ニケリ、是モ亦カタ腹イタクオカシ、カヤウノ振/k89