十訓抄 第一 人に恵を施すべき事 ====== 1の31 後一条院の御時清暑堂の御神楽に公任卿拍子取るべきにて・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 後一条院の御時、清暑堂の御神楽に、公任卿((藤原公任))、拍子取るべきにてありけるに、期(ご)にのぞみて、斉信卿((藤原斉信))、上臈にて上に居られたりけるに、「管絃者にてあらねば、さだめて、よも承伏せじ」と思ひて、笏をさしやりて、気色ばかり譲るよしをせられけるに、辞することもなくて、やがて拍子を取られけり。 思はずに、あへなく思ひて、終始聞くに、失なくめでたし。 こと果てて、「いつよりこのことは御沙汰候ふぞ」と言はれければ、「公事の道にて候へば、形のごとく用意つかまつれり」とぞ答へられける。いみじかりけり。 定頼((藤原定頼))、「朝倉」歌はれけるは、この日なり(([[s_jikkinsho01-02]]参照))。 ===== 翻刻 ===== 後一条院ノ御時清暑堂ノ御神楽ニ公任卿拍子取 ヘキニテ有ケルニ、期ニノソミテ斉信卿上臈ニテ上ニ 居ラレタリケルニ、管絃者ニテアラネハ、定テヨモ承伏 セシト思テ、笏ヲサシヤリテ気色ハカリユツル由ヲ セラレケルニ、辞スル事モナクテ、ヤカテ拍子ヲトラ レケリ、思ハスニアヘナク思テ終始キクニ失ナク目 出シ、事ハテテイツヨリ此事ハ御沙汰候ソトイハレ/k65 ケレハ、公事ノ道ニテ候ヘハ如形用意仕レリトソ答 ラレケル、イミシカリケリ、定頼朝倉ウタハレケルハ此日 也、/k66