今物語 ====== 第48話 文学上人佐渡国に流されたりけるが召し返されたりけるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 文学上人((文覚))、佐渡国に流されたりけるが、召し返されたりけるに((底本「たりるに」。諸本により補う。))、あるやむごとなき歌詠みのもとより、   別れしを悲しと聞きし老いの身の今まで□□□うれしきはいかに((「□□□」、諸本すべて空白。底本「うれしきは」で改行されているが、諸本に従い「いかに」までを歌とみる)) とありければ、返し、   嬉しさも京(みやこ)に出でしそはいかに今はかへりてかかる仰せを この上人の歌に、   世の中に地頭盗人なかりせば人の心はのどけからまし と詠みて、「我が身は業平にまさりたり。『春の心はのどけからまし』と言へる。何条(なんでう)、春に心のあるべきぞ」と言ひけり。 ===== 翻刻 ===== 文学上人佐渡国になかされたりけるかめしかへされたり るにあるやむことなき哥よみのもとより わかれしをかなしとききしおいの身のいままて□□うれしきは いかにとありけれはかへし うれしさも宮こにいてしそはいかにいまはかへりてかかるおほせを この上人の哥に/s28l 世中に地頭ぬす人なかりせは人のこころはのとけからまし とよみて我身は業平にまさりたり春のこころはのとけ からましといへる何条春に心のあるへきそといひけり/s29r