今物語 ====== 第35話 安貞のころ河内国に百姓ありけるが子に蓮華王といひける・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 安貞のころ、河内国に百姓ありけるが、子に蓮華王といひける童ありけり。 七なりける年、死にけるが、念仏申して、西に向きて、傍らなる人に、「我が死にたらば、七日といはんに、開けてみよ」と言ひて死ににけり。 その後、人の夢に、「必ず開けよ」と言ふと見て、開けてければ、舎利になりにけり。これを取りて、「人に拝ませむ」とて、かりそめに帳(ちやう)をして入れたりけるに、この帳をほどなく虫の食ひたりけるを見ければ   帰命蓮華王  大聖観自在   広度衆生界  父母善知識 と食ひて、果ての文字の所に、虫の死にてありける。いと不思議にめでたきことなり。 ===== 翻刻 ===== 安貞のころ河内国に百姓ありけるか子に蓮花王と いひけるわらはありけり七なりけるとししにけるか念仏 申て西にむきてかたはらなる人にわか死たらは七日と いはんにあけてみよといひてしににけりそののち人の夢 にかならすあけよといふとみてあけてけれは舎利に成に けりこれをとりて人におかませむとてかりそめにちやう をしていれたりけるにこのちやうを程なくむしのく ひたりけるをみけれは 帰命蓮華王 大聖観自在/s22l 広度衆生界 父母善知識 とくひてはての文字の所に虫のしにて有けるいとふし きにめてたき事なり/s23r