今物語 ====== 第33話 讃岐三位俊盛と聞こえし人春日の月詣でをしけるに・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 讃岐三位俊盛((藤原俊盛))と聞こえし人((底本「人」なし。諸本により補う。))、春日の月詣でをしけるに、定まりたる事にて、夜とまりに参りて、暁下向しけるに、夜深かりけるたび雨降りて、いと所せかりけるに、「後生の事を、かくほどに信をいたして、仏にもつかふまつらば、いかばかりめでたかりなむ。現世の事のみ思ひて、この宮にのみつかうまつること」と思ひて、春日山を通りけるに、高き梢(こずゑ)より、「菩提の道も我山の道」と言ふ御声の聞こえけるに、限りなく信起りて、尊く思えける。 ===== 翻刻 ===== 讃岐三位俊盛ときこえし春日の月まうてをしけるに さたまりたる事にて夜とまりにまいりてあかつき下向/s21l しけるに夜ふかかりけるたひ雨ふりていと所せかりけるに 後生の事をかくほとに信をいたして仏にもつかふまつらは いかはかりめてたかりなむ現世の事のみおもひて此宮 にのみつかうまつることと思て春日山をとをりけるにたか きこすゑより菩提のみちも我山のみちといふ御声 のきこえけるにかきりなく信をこりてたうとくおほえける/s22r