今物語 ====== 第22話 待賢門院の女房加賀といふ歌詠みあり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 待賢門院((藤原璋子))の女房、加賀((待賢門院加賀))といふ歌詠みあり。   かねてより思ひしことぞ伏し柴のこるばかりなる歎きせむとは といふ歌を年ごろ詠みて、持ちたりけるを、「同じくは、さりぬべき人に言ひ睦びて、忘られたらんに詠みたらば、集などに入りたらむも優(いう)なるべし」と思ひて、いかがありけむ、花園の左の大臣(おとど)((源有仁))に申し初めてけり。 その後、思ひのごとくやありけん、この歌を参らせたりければ、大臣殿もいみじくあはれに思しけり。 かひがひしく千載集に入りにけり。世の人「伏し柴の加賀」とこそ言ひける。 ===== 翻刻 ===== 待賢門院の女房加賀といふ哥よみあり かねてよりおもひし事そふし柴のこるはかりなるなけきせむとは といふ哥をとしころよみて持たりけるをおなしくはさり ぬへき人にいひむつひてわすられたらんによみたらは集 なとに入たらむもいうなるへしとおもひていかかありけむ 花園の左のおととに申そめてけりそののちおもひのこ とくやありけんこの歌をまいらせたりけれは大臣殿も いみしくあはれにおほしけりかひかひしく千載集に入 にけり世の人ふし柴の加賀とこそいひける/s15l