今物語 ====== 第20話 やむごとなき人のもとに今参りの侍出で来にけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== やむごとなき人のもとに、今参りの侍(さぶらひ)出で来にけり。焼絵をめでたくするよし、聞こえければ、前に呼びて、檀紙に焼絵をせさせけるに、「何をか焼き侍るべき」と言ひければ、「水に鴛鴦(をし)を焼け」と言はれけるに、うちうなづきて、   水には鴛鴦をいかが焼くべき と口ずさみけるを、主(あるじ)、聞き咎めて、「同じくは一首になせ」と言はれければ、かいかしこまりて、   浪の打つ岩より火をば出だすとも と言へりければ、人々みな讃めにけり。 ===== 翻刻 ===== やむ事なき人のもとにいままいりのさふらひ出来にけり やきゑをめてたくするよしきこえけれは前によひて/s14l 檀紙にやきゑをせさせけるに何をかやき侍るへきと いひけれは水にをしをやけといはれけるにうちうなつ きて 水にはをしをいかかやくへき と口すさみけるをあるしききとかめておなしくは一首 になせといはれけれはかいかしこまりて 浪のうつ岩より火をはいたすとも といへりけれは人々みなほめにけり/s15r