平中物語 ====== 第33段 またこの男見通ひにして人目にはつれなうて・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また、この男、見通ひにして、人目にはつれなうて、内にはもの言ひ通はすことはあれど、会ふべきことは難くぞありける。 されば、思ひは離(か)れず、思ふものから、異女(ことをんな)ども、この男の親族(しぞく)の男なる、花摘みにぞ行きける。 さて、山にまじりて遊ぶに、この男の馬放れにけり。荒れて、さらに捕られざりければ、このごろ通はす女ぞ、「恐しくも、早りあるかな」。男。 春の野に荒れて捕られぬ駒よりも君が心ぞ懐(なづ)けわびぬる 女、返し。 取る袖の懐くばかりに見えばこそ摘み野の駒も荒れまさるらむ ===== 翻刻 ===== 女いかか思ひけんあひかたらひにけり又この おとこ見かよひにして人めにはつれなうて うちにはものいひかよはすことはあれとあ ふへきことはかたくそありけるされはおもひ はかれすおもふものからこと女とんこのおとこ のしそくのをとこなるはなつみにそいき けるさて山にましりてあそふにこの男の むまはなれにけりあれてさらにとられさり けれはこのころかよはす女そおそろしくも/48オ はやりあるかなおとこ はるの野にあれてとられぬこまよりも きみか心そなつけわひぬる 女かへし とるそてのなつくはかりにみえはこそ つみののこまもあれまさるらん