平中物語 ====== 第30段 またこの男仏に花奉らむとて山寺に詣でけり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また、この男、「仏に花奉らむ」とて、山寺に詣でけり。 住む隣に、をかしきたはぶれこと言ひかはす人、かれもこれも、門(かど)より出で合ひて、男がり、女、「いづちぞ」と言ひおこせたりければ、「紅葉(もみぢ)濃き山へなむ」とて、   散るをまたこきや散らさむ袖広げ拾ひや止めむ山の紅葉を 「いかがはせむ。のたまはむに従はむ」と言へば、女、   わが袖と付くべきものと一つ手に((底本「人つてに」))山の紅葉よ余りこそせめ となむ。返し勝りなりける。 ===== 翻刻 ===== 人にもしられてあひかたらひける又この男 仏に花たてまつらむとて山てらにまうてけ りすんとなりにおかしきたはふれこといひ かはす人かれもこれもかとよりいてあひて/45ウ おとこかり女いつちそといひおこせたり けれはもみちこきやまへなんとて ちるをまたこきやちらさむそてひろ けひろいやとめん山のもみちを いかかはせんのたまはむにしたかはむといへは 女 わかそてとつくへきものと人つてに山 のもみちよあまりこそせめ となむかへしまさりなりける又このをとこ/46オ