平中物語 ====== 第12段 またこの男なほざりにもの言ふところありけり。・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また、この男、なほざりにもの言ふところありけり。 夏の夜の、月いとおもしろきに、「来む」と言へりければ((底本「いいへりけれは」。「い」は衍字とみて削除。))、女、言ひやる。   ほととぎすいづれの里を見ざりけむあまたふる巣と聞けば頼まず 男、返し。   鳴きふる巣里やありけんほととぎすわが身ならぬをいかが答へむ とのみ言ひやりて、やみにけり。 ===== 翻刻 ===== にけなしといひけれはいひやみにけりまた このおとこなをさりにものいふところあり けり夏の夜の月いとをもしろきにこむとい いへりけれは女いひやる ほとときすいつれのさとを見さりけむ あまたふるすときけはたのます をとこかへし なきふるすさとやありけんほとときす わか身ならぬをいかかこたへん/19オ とのみいひやりてやみにけりこのおとこ/19ウ