平中物語 ====== 第11段 またこの男人ともの言ふに返り事はするものから・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== また、この男、人ともの言ふに、返り事はするものから、会はでほど経ければ、男。   われのみや燃えて帰らむ世とともに思ひも((底本「思ひおもひも」。衍字とみて削除。))ならぬ富士の嶺(ね)のこと 女、返し。   富士の嶺のならぬ思ひも燃えば燃え神だに((底本「かたみに」))消たぬむなし煙(けぶり)を また、男、返し。   神よりも君は消たなん誰(たれ)により生々し身の燃ゆる思ひぞ また、女、返し。   かれぬ身を燃ゆと聞くともいかがせむ消ちこそ知らね水(みづ)ならぬ身は かう歌も詠み、をかしかりけれど、まめやかに、「にげなし」と言ひければ、言ひやみにけり。 ===== 翻刻 ===== 又このおとこ人とものいふにかへり事はする/18オ ものからあはてほとへけれはおとこ 我のみやもえてかへらむよとともに思ひ おもひもならぬふしのねのこと 女かへし ふしのねのならぬおもひももえはもゑ かたみにけたぬむなしけふりを 又おとこかへし 神よりもきみはけたなんたれによりな まなましみのもゆるおもひそ 又女かへし かれぬ身をもゆときくとんいかかせむけ/18ウ ちこそしらねみつならぬ身は かう哥もよみおかしかりけれとまめやかに にけなしといひけれはいひやみにけりまた/19オ