[[index.html|古今著聞集]] 魚虫禽獣第三十 ====== 725 荘子山を過ぎ給ふに木を伐る者あり・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 荘子、山を過ぎ給ふに、木を伐(き)る者あり。すぐなるをば伐りて、ゆがめるをば伐らず。また、人の家に宿り給ふに、雁二つあり。主(ぬし)、よく鳴くをば生けて、よく鳴かざるをば殺しつ。 明くる日、弟子、荘子に申していはく、「昨日の山中の木は、すぐなるをば伐りて、ゆがめるをば伐らず。また家の二雁は、よく鳴くばは生けて、鳴かざるは殺しつ。良き木も伐られ、良からざる雁も殺されぬ」と。荘子のいはく、「世の中のためし、これにあり」と答へ給へり。 文集((白氏文集))の詩にいはく、  木雁一篇須記取 (木雁の一篇すべからく記し取るべし)  致身材与不材間 (身を致す材と不材との間) とあるはこれなり。また、陸士衡((陸機))が文賦には、  在木闕不材之質 (木に在りては不材の質を闕き)  処雁乏善鳴之分 (雁に処しては善鳴の分に乏し) とも書けり。 また、藤原篤茂が長句には、  昨日山中之木、材取諸己 (昨日の山中の木、材は諸(これ)を己に取り)  今日庭前之花、詞慚於人 (今日の庭前の花、詞は人に慚づ) この一篇などは、禽獣の部に入るべきにあらず。さりながら、二雁のためしに注(しる)し入れ侍るなり。 ===== 翻刻 ===== 庄子山をすき給に木をきるものありすくなる をはきりてゆかめるをはきらす又人の家にやと り給に雁二ありぬしよくなくをはいけてよくなか さるをはころしつあくる日弟子庄子に申云昨日の 山中の木はすくなるをはきりてゆかめるをはきら す又家の二雁はよくなくをはいけてなかさるはころ しつよき木もきられよからさる雁もころされぬと/s564l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/564 庄子のいはく世中のためしこれにありとこたへ給へ り 文集詩云  木雁一篇須記取 致身材与不材間と あるは是なり又陸士衡か文賦ニハ  在木闕不材之質 処雁乏善鳴之分 ともかけり又藤原篤茂か長句ニハ  昨日山中之木材取諸己今日庭前之花詞慚於人 此一篇なとは禽獣の部に入へきにあらすさりな から二雁のためしに注入侍なり/s565r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/565