[[index.html|古今著聞集]] 魚虫禽獣第三十 ====== 721 院の御随身右府生秦頼方都鳥をある殿上人に参らせたるを・・・ ====== ===== 校訂本文 ===== 院((後嵯峨上皇))の御随身右府生秦頼方、都鳥(みやこどり)をある殿上人に参らせたるを、成季((橘成季。『古今著聞集』の作者。))にあづけられて侍り。食ひ物なども知らで、よろづの虫を食はせ侍るも所せく覚えて、ゆゆしきもの飼ひなるによりて、小田河美作入道茂平((小早川茂平))がもとへやりて飼はせ侍りしを、建長六年十二月二十日、節分の御方違(かたたがへ)のために、前相国((藤原実氏))の富小路亭に行幸なりて、次の日一日御逗留ありし。相国、かの都鳥を召して叡覧にそなへられけり。 「返しつかはす」とて、少将の内侍、紅の薄様に歌を書きて、鳥に付けて侍りける。   春にあふ心は花の都鳥のどけき御代のことや問はまし 大臣(おとど)、また女房に代はりて、檀紙に書きて、同じく結び付けける。   隅田川住むとし聞きし都鳥今日は雲井の上に見るかな このことを兼直宿禰((卜部兼直))伝へ聞きて、本主に申し乞ひて見侍りて、返すとて、  都鳥芳名、昔聞万里之跡。(都鳥の芳名、昔万里の跡に聞く。)  薇禽奇体、今逐一見之望。(薇禽の奇体、今一見の望みを逐ぐ。)  畏悦之余、謹述心緒而已。(畏みてこれを悦ぶ余り、謹みて心緒を述ぶるのみ。)   にごりなき御代にあひ見る隅田川すみける鳥の名を尋ねつつ 前参河守卜部兼直上 ===== 翻刻 ===== 院御随身右府生秦頼方みやことりをある殿上 人にまいらせたるを成季にあつけられて侍りく ひ物なともしらてよろつのむしをくはせ侍も所せ くおほえてゆゆしきものかいなるによりて小田河美 作入道茂平かもとへやりてかはせ侍しを建長六年 十二月廿日節分の御方違のために前相国の冨小路 亭に行幸なりて次日一日御逗留ありし相国彼 みやこ鳥をめして叡覧にそなへられけり返し つかはすとて少将内侍紅のうすやうに哥をかきて 鳥につけて侍ける  春にあふ心ははなのみやこ鳥のとけき御代のことやとはまし/s559l http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/559 おとと又女房にかはりて檀紙にかきておなしくむす ひつけける  すみた川すむとしききし宮こ鳥けふは雲井のうへに見るかな 此の事を兼直宿禰つたへききて本主に申こひて 見侍て返すとて   都鳥芳名昔聞万里之跡薇禽奇体今   逐一見之望畏悦之餘謹述心緒而已  にこりなき御代にあひみるすみた川すみける鳥の名をたつねつつ                前参河守卜部兼直上/s560r http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/560