[[index.html|古今著聞集]] 魚虫禽獣第三十
====== 720 白拍子太玉王が家にある女にある僧通ひけるを・・・ ======
===== 校訂本文 =====
白拍子(しらびやうし)太玉王(ふとたまわう)が家にある女に、ある僧通ひけるを、本妻あさましくもの妬みの者にて、「いかにせむ」と妬みけれども、なほ用ゐず通ひけるほどに、建長六年二月二日の夜、またこの僧、かの女に合宿して、ことども企てけるが、その女をこそするに、本妻をする心地に覚えければ、怪しう恐しく覚えて、引き離れて見れば、この愛物の女なり。またすれば、本妻をする心地なり。
なほ恐しく覚えければ、這ひ下りたりけるに、五・六尺ばかりなる蛇(くちなは)、いづくよりか来たりつらん、件(くだん)の頭((亀頭))にあやまたず食ひ付きにけり。振り放たんとすれども、いよいよ食ひ付きて、口はさけけれども離れざりける時に、しかねて、刀を抜きて、蛇の口を裂きてけり。裂かれて、やがて蛇は死ぬ。
その後、この僧の件(くだん)腫れて、心身もなやみて、生ける正体もなかりけり。件の蛇をば堀川に流したりければ、京わらはべ集り見けり。まことにや、この本妻も、その夜よりなやみて((底本「なやみて」なし。諸本により補う。))、やがて失せにけると申し侍り。恐しきことなり。
===== 翻刻 =====
白拍子ふとたまわうか家にある女にある僧かよ
ひけるを本妻あさましく物ねたみの物にて
いかにせむとねたみけれともなをもちゐすかよ
ひけるほとに建長六年二月二日の夜又此僧彼
女に合宿してことともくはたてけるかその女
をこそするに本妻をする心ちにおほえけれ
はあやしうおそろしくおほえてひきはなれて
みれはこの愛物の女也又すれは本妻をする/s558l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/558
心ちなりなをおそろしくおほえけれははいおり
たりけるに五六尺はかりなるくちなわいつく
よりかきたりつらん件のかしらにあやまたすくい
つきにけりふりはなたんとすれともいよいよくひつき
て口はさけけれともはなれさりける時にしかねて
かたなをぬきて蛇の口をさきてけりさかれてや
かてくちなわはしぬそののちこの僧件はれて心身
もなやみていける正体もなかりけり件くちなわ
をは堀川になかしたりけれは京わらはへあつまり見
けりまことにやこの本妻もその夜よりやかてうせに
けると申侍りおそろしき事也/s559r
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/559